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静岡地方裁判所沼津支部 平成6年(ワ)171号 判決

静岡県〈以下省略〉

原告

右訴訟代理人弁護士

萩原繁之

東京都千代田区〈以下省略〉

被告

大和證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

小村享

内藤満

増田利昭

右小村享訴訟復代理人弁護士

下門優枝

主文

一  被告は、原告に対し、金八八〇万一〇六五円及び内金八〇万三五四六円に対する平成五年一一月二六日から、内金七九九万七五一九円に対する平成六年六月一七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金一二五七万二九五二円及びこれに対する平成五年一一月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、一般投資者である原告が、証券会社である被告の従業員の違法な勧誘を受けて、トレジャリー(米国の国債)及びワラントを買い付けた結果、その買付代金相当額の損害を被ったとして、被告に対し、債務不履行又は不法行為責任に基づき、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

原告は、被告との間で、昭和五七年一二月ころから、中期国債ファンドの取引を始め、その後、株の取引をするようになった。

被告は、証券業を目的とする会社であり、被告沼津支店においては、従業員であるB(以下「B」という。)が原告の担当者としてトレジャリーの勧誘と取引に、C(以下「C」という。)が原告の担当者として、ワラントの勧誘と取引に当たっていた。

2  トレジャリーの取引

原告は、別紙取引明細書記載のとおり、昭和六一年二月一八日から同年五月一九日までの間、五回にわたり、Bの勧誘を受けて、トレジャリーを買い付けた。

3  ワラントの取引

原告は、別紙取引明細書記載のとおり、昭和六二年五月二〇日から平成三年七月五日までの間、一九回にわたり、Cの勧誘を受けて、ワラントを買い付けた。

二  原告の主張

1  B及びCは、被告の業務として、次のとおり債務不履行あるいは違法な行為を行ったものである。

(一) 説明義務違反

トレジャリーは、米国の国債であるが、為替レートの変動によるリスクを被り、投資した金額の元本割れの危険を伴う。また、ワラントは、権利行使期間の経過により無価値となる危険性、為替変動による危険性、価格形成の不透明による危険性がある。

したがって、被告とその従業員は、顧客に対し、トレジャリー及びワラントの基本的な性格と取引の危険性を十分に説明し、その理解を得た上で購入を勧誘するべき取引上の義務を負っている。

ところが、B及びCは、堅実な貯蓄性商品の購入を希望していた原告に対し、トレジャリー及びワラントの取引の勧誘に当たり、右危険性を説明せず、かつ、取引説明書も渡さなかったものであるから、その勧誘行為は違法である。

(二) 虚偽の表示又は誤解を生ぜしめるべき行為

有価証券の売買に関し、虚偽の表示をし、若しくは誤解を生ぜしめるべき表示をする行為は禁止されているにもかかわらず、B及びCは、これに違反して、原告に対し、トレジャリー及びワラントの取引の勧誘をした。

(三) 断定的判断

有価証券の売買に関し、有価証券の価格が騰貴することの断定的判断を提供して勧誘する行為は禁止されているにもかかわらず、B及びCは、これに違反し、原告に対し、「絶対に儲かる。」などと言って、トレジャリー及びワラントの取引の勧誘をした。

(四) 適合性の原則違反

投資者に対する投資勧誘に際しては、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適した投資が行われるよう十分に配慮することが大原則である。ところが、B及びCは、ワラントのような危険な取引を望んでいなかった原告に対し、トレジャリー及びワラントの取引の勧誘をした。

2  原告は、被告の債務不履行又は不法行為により、トレジャリーの取引に伴う損害一一四万七九二四円、ワラントの取引に伴う損害一一四二万五〇二八円を被った。

三  被告の主張

B及びCは、原告に対し、トレジャリー及びワラントの取引に際し、その商品の説明を十分行い、これについての説明書を交付したものであり、また、原告に交付された預り証には、ワラントの権利行使期間が明記されている。原告は、これを納得した上、自己の判断と責任において取引をしたものである。

四  争点

1  被告の従業員の勧誘に違法があったかどうか。

2  原告の損害額

第三判断

一  原告の経歴等について

証拠(甲三八、四二、原告)によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、昭和○年三月高校を卒業し、昭和○年三月から昭和○年○月までの間、機械工として働いていた。この間、短期大学を卒業し、宅地建物取引主任者の資格を取得した。

2  原告は、昭和五三年四月から、住宅関係の株式会社aで営業の仕事をしていたが、同社が昭和六〇年八月ころに倒産したため、しばらく失業状態が続いた。

3  原告は、昭和六一年一〇月会社を設立し、それ以来現在まで、不動産仲介業を営んでいる。

二  原告と被告との取引について

1  証拠(甲三八、三九の1、乙二、四の1ないし20、五ないし一六、二一の1、二五の1ないし10、証人B、同C、原告本人)によれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、株式会社aで勤務していたころ、不動産の購入を希望したBと知り合い、昭和五七年一二月から、Bに対し、中期国債ファンドの取引をするようになり、Bが原告の担当者となった。

(二) 原告は、その後、中期国債ファンドを中心に公社債投資信託の取引を続けていたが、資産作りのため、昭和六〇年二月一日から、被告との間で、株式の現物取引を始めた。原告は、株式の取引に当たり、自分で銘柄を選定し、Bを通じて、被告に対し買付けの注文をしていたものであり、昭和六一年三月までに七銘柄の取引をした。一回の買付け金額は八百半デパートを除き一〇〇万円以下であり、保有期間は四か月程度から一年程度であった。

(三) 原告は、自己所有の土地を昭和六〇年一一月に売却したことにより手持資金を有していたので、Bに対し、「八〇〇万円ほどあるが、何かよい商品はないか。」と尋ねたところ、Bから、トレジャリーの勧誘を受けた。その際、Bは、「アメリカの国債で、安全性が高い。いつでも換金することができる。」などと説明をしたが、為替変動による危険性については具体的に説明しなかった。原告は、Bの説明を受けた結果、トレジャリーを貯蓄性の高い安全なものだと思って、その取引をすることを承諾し、昭和六一年二月一七日、外国証券取引口座を開設した。

(四) そして、原告は、別紙取引明細書記載のとおり、トレジャリーを、昭和六一年二月一八日には額面五一万ドルを七九三万九五五二円、同月二七日には額面二二万ドルを八〇八万七七〇〇円、同年三月三日には額面七万ドルを一二六万五一九二円でそれぞれ買付けをし、その後、売付けをした結果、合計八八万六九三七円の利益を得た。ところが、同月二八日に額面四〇万ドルを七九二万五六一〇円で買付けをしたトレジャリーについて、原告は、売付けを申し出たが、Bから、円高のため、「今解約すると、損をする。待ってください。」と言われたので、そのうち、額面五万ドル分だけ売付けをした。その後、残りの額面三五万ドルのものについても損失が見込まれたので、原告は、B及び被告沼津支店長Dに対し、トレジャリーの価格の下落について苦情を述べ、その損失の補填を要求した。そこで、Bは、上司と相談の上、残りの額面三五万ドルのものについて、原告の申出に応じて売付けをするととともに、原告に損失を回復させるための方法として、転換社債の買付けを勧誘した。その結果、原告は、右トレジャリーを昭和六二年四月二三日に売付けをするとともに転換社債の買付けをしたが、結局、トレジャリーの売買では二二三万三二八一円の損失を被り、転換社債の売買では三四万九四〇七円の利益を得た。なお、昭和六一年五月一九日に二八八万一二九六円で買付けをした額面一六万ドルのトレジャリーについては、同年一〇月三一日売付けをし、一九万八四二〇円の利益を得た。その結果、原告は、トレジャリー取引による利益を差し引くと、一一四万七九二四円の損失を被ったことになる。

(五) Cは、昭和六二年四月ころから、石川支店長の命令で、原告の担当者となった。そして、Cは、原告から、トレジャリーの取引による損失の補填を求められたので、石川支店長の指示により、原告に対し、同年五月一九日、電話を掛け、その当時人気のあったワラントの取引を勧誘した。その際、Cは、原告に対し、ワラントについて、新しい商品であり、短期間に儲かるなどと説明したものの、権利行使期間があり、その期間が経過すると、無価値となることについては説明をしなかった。原告は、Cの説明に対し、特別に質問をすることもなく、ワラントの取引を即座に承諾し、翌二〇日、スズキのワラントを五四八万三四〇〇円で買付けをし、転換社債の売付けによる利益に自己資金を加えてその代金を支払った。そして、同月二九日、これを売却して一〇四万〇一二三円の利益を得た。

原告は、その後も、Cから、電話でワラントの買付けの勧誘を受けた結果、別紙明細書記載のとおり、ワラントの取引を行い、概ね利益を得ていた。また、原告は、ワラントの取引と併行して、株式の取引を続けていた。ところが、平成二年ころから、ワラントの相場価格が下落したため、神戸製鋼、伊藤忠商事、住友不動産、日産車体の各ワラントは、売却の機会を失して保有したままにしていたが、権利行使期間が経過し、無価値となり、結局、一一四二万五〇二八円の損失となった。

2  原告、B及びCの各供述の信用性について

(一) 原告は、Bから、トレジャリーについて、米国の国債であるとの説明を受けたことがあるが、外国為替が関係しているとの説明は一切なされなかったし、このような認識もなかった旨主張し、原告の供述及び陳述書(甲三八)の記載中には、これに沿う部分がある。

しかしながら、原告は、トレジャリーの取引に先立って、外国証券に投資する認識の下に、外国証券取引口座設定約諾書(乙二)に署名押印しており、また、トレジャリーの取引の都度、被告から為替レート等の記載がある取引報告書を受領していること、さらに、Bに対し、「円高になってくると、トレジャリーの価格が下がらないか。」などと為替の変動による影響を質問していることに照らすと、後記のとおり、Bが説明した内容は不十分なものであったにせよ、原告においては、トレジャリーについて外国為替が関係していたことを一応認識していたものと推認されるから、その認識がなかった旨の原告の右供述等は採用できない。

(二) Bは、トレジャリーを原告に勧誘するに当たり、原告が勤務していた会社に出向き、パンフレットを示した上、トレジャリーの買付け価格が、額面、単価及び為替によって決まり為替や単価の変動により利益が出たり損が出ることもあると説明した旨供述する。しかしながら、原告は、Bから、自己が勤務していた会社でBからパンフレットを見せられてトレジャリーの説明を受けたことを否定しており、これを認めるに足りる証拠はない。また、Bは、専ら電話で原告にトレジャリーを勧誘したこと、Bは、その当時、円高傾向にありながらトレジャリーの単価の動きが大きいため、利益が出ており、担当した顧客が損失を被ったという経験もなかったこと、しかも、被告作成のトレジャリーに関するパンフレット(乙二六)及び説明書(乙二七)には、安全性が高いことを強調しており為替変動によるリスクについてはほとんど記載がないことに照らすと、Bがトレジャリーを勧誘するに当たり、原告に対し、為替差損が生じる危険性よりは利益が上がることを強調し、その有利性を中心に勧誘するのが通常であると考えられるから、為替変動による損失が生じる危険性についても説明したとのBの供述は採用できない。

(三) 被告は、Cが原告に対しワラントを勧誘するに当たり、株とは異なり、新株引受権であること、株が上がればその数倍の割合で上がるし、下がれば数倍の割合で下がること、権利行使期間があることなどを説明しており、原告においては、権利行使期間が経過すれば権利が失効することを理解できたはずである旨主張し、証人Cの供述及び陳述書(乙二三)の記載中には、これに沿う部分がある。

しかしながら、前記認定の事実によれば、ワラントの取引は、トレジャリーの取引によって被った原告の損失を回復させる狙いもあったことが認められること、Cは、電話によってワラントの特質を説明したというが、電話による説明は、面談の上、説明書を示しながら説明するのとは異なり、ワラントのような複雑な取引事項について、相手方の十分な理解を得るように説明することが不適切な方法であるから、一方的に、しかも、概略的な説明にとどまり、どちらかというと相手方に対し専らワラントの取引の有利性に比重を置くのが自然であり、その危険性の説明については消極的にならざるを得ないものと考えられること、また、Cが権利行使期間の説明をしたのであれば、権利行使期間が経過すれば権利が失効することも併せて説明をするのが通常であり、他方、ワラント取引の経験のない原告としても、権利行使期間について馴染みがないから、その意味あるいはその期間が経過した場合の効果をCに質問するべきはずのところ、Cは、権利行使期間が経過すれば権利が失効することについて説明をせず、原告からも質問がなかったと供述していること、Cは、原告からワラント取引により損失を被ったとして苦情を述べられた際、説明不足があったことを自認していたこと(甲二四ないし二六)に照らすと、権利行使期間等について説明をした旨のCの供述等は採用できない。

三  トレジャリーおよびワラントの特質等について

1  トレジャリーは、米国政府の発行する国債であり、元本部分と利札部分が分離され、割引債券として流通しているが、日本では、元本部分のみに限って取扱いがなされており、被告では、この元本部分を「トレジャリー・ゼロ」と呼んで取引をしている。トレジャリーは、発行から満期(一〇年、二〇年、三〇年)に至るまで、中間の利払がない代りに、利息に相当する分だけ値上がりしていく仕組みになっており、満期時に額面価格で償還される。トレジャリーは、米ドル建てのため、為替リスクを伴うが、購入時の利回りが高ければ高いほど、また、これを長期にわたって保有すればするほど投資成果が高まってくる。トレジャリーは、市場で売買がなされているため、満期に至るまでの途中で、いつでもその当時の時価で換金することができる。途中の売却値段は、その当時の市場の実勢利回り水準で決まるが、市場金利は常に上下に変動を繰り返している。また、売却時の為替相場が購入時よりも円高になっていれば、為替差損の危険があるため、為替相場の動向に十分注意を払う必要がある。その結果、トレジャリーの単価あるいは為替の変動により利益が出たり損失を被ったりする(以上につき、乙二六、二七、証人B)。

2  ワラントは、新株引受権付社債(ワラント債)のうち、新株引受権の部分を社債部分から分離したものであり、それ自体で取引の対象とされており、一定期間(権利行使期間)内に所定の価格(権利行使価格)で一定数の新株を買い受けることができる権利(証券)であるが、我が国の市場では馴染みがなく、かつ、価格変動が激しくなる可能性があるので、ワラントの取扱いが禁止されていたが、金融の自由化等の必要から、昭和六〇年一〇月以降、国内での発行・取引がなされるようになった。そして、ワラントは、権利行使時に発行会社の株価が権利行使価格を上回らないときは、ワラントを行使する意味がなく、権利を行使しないまま権利行使期間を経過すると、ワラントは、無価値となる。また、ワラントの価格は、権利行使価格と株価との差額部分である理論価格(パリティ価格)によって規定されるが、現実のワラントは、パリティ価格とプレミアム価格(株価上昇の期待度、権利行使期間の長短、需給関係等の複雑な要因によって変動する。)によって形成された市場価格で取引がなされている。

加えて、ワラントの価格は、基本的には、株価に連動して変動するが、その変動率は、株価より大きく、株価の上下に対しその数倍も変動することがある(ギアリング効果)。また、プレミアム価格の変動は、不安定でその予測が困難なものであり、株価が下がらなくても、ワラント価格が下がることもある。

したがって、ワラントは、少額の投資で大幅の利益を得ることができる場合もあるが、その反対に、損失を被ることもあり、株式と比べて、ハイリスク・ハイリターンな金融商品である。

四  被告の不法行為責任について

1  トレジャリーの取引について

(一) 前記認定のとおり、トレジャリーは、満期に至るまでの途中で、いつでもその当時の時価で換金することができるところ、途中の売却値段は、その当時の市場の実勢利回り水準で決まるが、市場金利は常に上下に変動を繰り返している上、売却時の為替相場が購入時よりも円高になっていれば、為替差損の危険があることが認められる。

したがって、証券会社及びその従業員は、投資者の職業、年齢、資力、投資目的、投資経験等に照らし、トレジャリーの勧誘に当たり、その仕組み、市場金利、為替相場、円高により為替差損が生じる危険性があるなど、トレジャリーの取引に伴うリスクに関する的確な情報の提供や説明を行う注意義務を負っているというべきである。

(二) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告は、外国為替の取引の経験も知識もなく、素人に等しい上、投機的な色彩の薄い比較的安全な商品の取引を行ってきたものであること、Bは、原告に対し、トレジャリーを勧誘した際、「アメリカの国債で、安全性が高い。いつでも換金することができる。」などと説明をしたが、為替変動による危険性については具体的に説明しなかったこと、原告は、Bから、右説明を受けた際、トレジャリーが米国の国債であるから、これを貯蓄性の高い安全なものだと思って、その取引をすることを承諾したものであり、為替差損により損失が生じる危険性があるとは考えていなかったことが認められる。

そうすると、Bにおいては、原告がトレジャリーの取引について為替差損の危険があることの的確な認識を形成することができる程度に、その説明を尽くさなかったものと認めるのが相当であり、Bの勧誘方法は違法であるといわざるを得ない。したがって、被告は、民法七一五条により、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

2  ワラントの取引について

(一) 前記認定のとおり、ワラントは、株式の現物取引等と比較して、ハイリスク・ハイリターンな金融商品であり、しかも、昭和六〇年一〇月以降、国内での発行・取引がなされるようになったもので、一般には馴染みが薄く、商品の意義・性質、取引の危険性、価格情報等についても、一般に知れ渡っているとはいい難い。そして、証券会社は、証券取引に関する豊富な知識、経験を有しており、一般の投資者は、証券会社の勧誘や助言を信頼して、証券取引を行っているのが実情である。

したがって、投資者の職業、年齢、資力、投資目的、投資経験等に照らし、ワラントによる利益や危険性に関する的確な情報の提供や説明を行うべきであり、具体的には、ワラントには権利行使期間があり、これを経過したときには無価値となること、権利行使時に発行会社の株価が権利行使価格を上回らないときは、ワラントを行使する意味がなく、権利行使期間が経過する前であっても、市場価格がゼロになることがあることなどを説明し、一般投資者がワラントについて正確に理解をした上、その自主的な判断でワラント取引をするか否か決定できるようにすべき注意義務を負うものというべきである。

(二) これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告は、昭和五七年一二月から、中期国債ファンドの取引を始め、その後、小規模な現物株の取引及びトレジャリーの買付けを五回、売付けを六回行っていたにすぎず、本件ワラント取引以前には、ワラント取引の経験がなかったものであること、Cは、電話で原告にワラントの特質について一応の説明をしてその購入を勧誘したものであるが、権利行使期間があり、これが経過すると、無価値となることなどの説明をしなかったものであることが認められる。

そうすると、Cにおいては、原告がワラント取引の危険性等について的確な認識を形成することができる程度に、その説明を十分にしなかったものと認めるのが相当である。

これに対し、被告は、原告に対し電話でワラントの勧誘をした際、ワラントの特質を説明し、ワラントの取引がなされる都度、原告に預り証を交付しており、これには、権利行使期間があり、これが経過すると、無価値になってしまうことなどの記載があること、さらに、原告に対し、ワラントの特質等について記載された説明書を渡しているので、ワラントの危険性について十分な説明をした旨主張する。しかしながら、Cがワラントの権利行使期間及びこれが経過すれば無価値になるということなどのワラントの危険性についての説明をしていないまま、その買付けの勧誘をしたことは、前記認定のとおりであるから、後日、被告が、ワラント取引に関する取引の説明書を送付し(乙一八の1ないし3によれば、被告は、原告に対し、平成二年九月二八日、平成三年九月三〇日、平成四年九月三〇日にそれぞれ説明書を送付しているが、乙一のワラント取引に関する確認書の署名を求めたときに、Cが原告に説明書を交付したかどうかは明かでない。)、また、権利行使期間等の記載がある預り証を交付したとしても、右説明書の送付あるいは預り証の交付時期からみて、原告がこれを読んでワラントの危険性に注意するということは困難であると考えられるから、被告においてワラントの危険性等について説明を尽くしたとはいい難い。

以上の事情を考慮すれば、ワラントの買付けの勧誘の際の原告に対する説明は、不適切であり、違法というべきであり、被告は、民法七一五条により、原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

五  原告の損害について

前記二によれば、原告は、トレジャリーの取引によって生じた損失一一四万七九二四円及びワラントの取引によって生じた損失一一四二万五〇二八円相当の損害を被ったものと認めるべきである。

六  過失相殺について

原告はB及びCの説明不足により、トレジャリー及びワラントを安全なものとして買付けをしたものであるが、原告においても、これらの仕組みと危険性について十分に理解しないで、安易に買付けを承諾したものであるから、本件においては、原告の過失の割合は三割と認めるのが相当である。

そうすると、原告の損害は、トレジャリーについて八〇万三五四六円、ワラントについて七九九万七五一九円となる。

七  付帯請求

ワラントの取引においては、権利行使期間の最も遅い伊藤忠ワラントの権利行使期間である平成六年六月一六日の経過により損害額が確定したものというべきであるから、同月一七日を付帯請求の起算日と認めるのが相当である。

八  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、不法行為に基づく損害賠償として八八〇万一〇六五円及び内金八〇万三五四六円に対する平成五年一一月二六日から、内金七九九万七五一九円に対する平成六年六月一七日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 打越康雄)

〈以下省略〉

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